最近、カナダのスーパーに足を運ぶと、パッケージの正面に小さな虫眼鏡と「High in」の太字が目立つ食品が並び始めています。2026年1月から全面施行される「フロント・オブ・パッケージ(FOP)ラベル」制度は、カナダの食卓と加工食品産業に大きなインパクトをもたらしつつあります。この制度はカナダの保健省(Health Canada)が主導し、肥満や生活習慣病が深刻化する現代社会において、スーパーなどでの食品選びの段階から消費者の健康を守ることを目指したもの。今回はその導入に至った背景や仕組み、意義、国民や業界への影響までを少し掘り下げてお話しさせていただこうと思います。
▼目次
2026年1月からカナダで施行されるFOP(Front of Package)ラベルは、「飽和脂肪酸」「糖類」「ナトリウム(塩分)」のいずれか、あるいは複数を一定量以上含む包装食品が適用対象となります。スーパーやコンビニで手に取るお菓子や加工食品の大半が関係することになりそうです。ラベルはパッケージの前面に白黒の虫眼鏡マークとともに、”High in(多く含有)”の表示、そして具体的な成分名が記載される形となります。一見シンプルですが、消費者の食選びに大きなインパクトを与える可能性を秘めています。
ちなみに、このラベルはパッケージ裏面の細かい成分表を補完する役割を担っています。実際食品パッケージ裏面の栄養成分表を見ても、読み方やその指し示す数値が一般的に高いのか低いのかを完全に理解できる消費者は意外と少ないのではないでしょうか。
この制度は、細かな数値を”読む”のではなく、”感じる”ことで、忙しい日常生活の中でも健康リスクが高い食品を避けやすくすることを狙ったものです。日本で言えば、タバコやお酒の警告ラベルの”食版”といえるかもしれません。
さて、カナダのFOPシンボルですが、デザインにはちょっとしたストーリーがあります。虫眼鏡は、「よく見て選んでほしい」というメッセージを込めた象徴。また、このマークには英語とフランス語の両方で「Health Canada」表記が入り、カナダの多文化社会らしさも垣間見えます。
豆知識(余談)ですが、カナダには食品ラベルの誤解や言語による事故を防ぐため、表示の二言語併記義務がある、と知っていましたか?



今回のカナダでのFOPラベル導入の背景には、カナダ人の健康意識の高まりと現実的な課題が隠れています。政府発表によると、カナダの成人の約5人に2人が心疾患または糖尿病などの生活習慣病に悩まされているそうです。さらに、カナダ保健省は「飽和脂肪酸・糖類・ナトリウムの過剰摂取が慢性疾患のリスク増大に直結する」という科学的根拠に基づき、この三大成分をターゲットとしました。
数字で見ると、たとえばナトリウム摂取量を1人あたり1日400㎎減らすだけで、年間4万件の心疾患、2万3千件の脳卒中が減るという研究結果もあるようです。仮にこの研究結果が正しいとすれば、かなりインパクトのある数字と言えるのではないでしょうか。
(Nutri-Score等を含む)FOPラベルは世界で急速に拡大中ですが、カナダ独自の工夫も随所にみられます。たとえば、極論を避け消費者の”選択の自由”を尊重するバランス重視の設計や、業界・消費者団体・公衆衛生の専門家など多様な意見を聴きながら決まった点です。しかも、製造業者には2016年1月1日までの「長い移行期間」を与え(※カナダ政府が新FOP栄養表示規則を発表したのは2022年6月)、「現実と理想の間」をしっかり橋渡しする配慮が見られます。
余談ですが、カナダ国内の報道では、実際にスーパーで”栄養成分の多さを示すマークがついた食品は手に取るのをやめた”と答える消費者の声が紹介されています。また、現地テレビ局が2023年に行ったインタビューでは、小学生の子どもが買い物中に”パパ、この商品は体によくないって印がついているよ”と指摘したという親の体験談も取り上げられました。こうしたエピソードは、FOP表示がすでに家庭の購買行動に少なからず影響を及ぼし始めていることを示しています。
また、こうした消費者の行動変容が行政の狙いどおり、着々と進行中なのが興味深い点です。
もちろん、食品業界の多くは「再設計やパッケージ変更のコスト増」「健康訴求と売り上げバランスの課題」に敏感です。一方、「FOPマーク回避のために”改良版レシピ”を開発した」というようなポジティブな波も広がっています。まさに、「規制」を「イノベーションのきっかけ」として活用する企業も増えているのは、カナダらしい好循環かもしれません。
余談ながら、日本ではFOP規制はまだ導入されていません。ただし酒類やたばこの警告表示、トクホや機能性表示食品マークの普及など、”シンボルで伝える”方法は定着しつつあります。今後は国際的な規制動向を踏まえ、国内でもわかりやすい栄養表示の仕組みが検討される可能性は十分あるでしょう。
カナダFOPラベルの狙いは、「健康的な選択を無理なくサポートし、国全体の健康指数を底上げする」こと。新規制はシンプルなシンボルで生活の中に溶け込み、消費者の意識・行動――そして業界のイノベーションを刺激しています。「健康は裏面でなく表面から」――カナダ初の新常識が、近い将来、日本や世界のスタンダードになるかもしれません。
食品表示規則の変更は、食品を輸出する事業者の皆様にとって重要な課題です。主要国では、栄養表示の義務化やアレルゲン表示の厳格化、リサイクルマークの表示やNutri-Scoreの表示義務化など、新たな規則が次々と施行されています。
これらの変化に対応するためには、製品ごとに各国のルールに準拠したラベルの作成が必要です。シグネットの「食品輸出ラベル印刷サービス」は、多品種少量印刷に対応し、リピート発注は最短2営業日で発送が可能です。また、エクセルをデータベースとして使用するため、表示内容の変更にも柔軟に対応できます。
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次回はもう少し実務的な側面からFOPラベルの詳細についてお話ししていきたいと思います。